初秋

少し低いところに雲が垂れ込めている。見渡す限り少し白みがかった灰色の空である。吹く風は、冷たく感じる程である。この冷気が実りを呼ぶのだろう。今年は豊作だろうか? 暦の上では立秋が過ぎ、これから日増しに太陽が顔を出す時間が短くなってくる。夏至の頃から比べ朝日の昇る時間が徐々に遅くなり、外の夕闇が迫る時間が短くなっているのを感じる。一日一日では、その長さは気にならならないレベルだが、それが一週間、一月のレベルで見れば変化しているのを感じる。その感じ方は、まさしく老いの感覚と同じ時間軸で進行しているのである。昨日の自分、一年前の自分、変わっていないようで変わっている。それは容姿であり、考え方でもあるわけである。更に周囲の環境も変わり、いつも一緒にいた人もやがていなくなってしまう。時の移り変わりといえば簡単だが、振り返ってみれば別れが昨日のように蘇ってきたりする。それが記憶の不思議なところでもある。「初秋」といえば、ロバート.B.パーカーのハードボイルドを思い出す。うらぶれた元警官の探偵の話である。既にそのあらすじは記憶に残っていない。あの本はどこにしまっただろう。それとも既に片付けてしまっただろうか? 自分もその境地にたどり着いたところである。この先どういった人生が待っているか知らない。過去を振り返ることはできるのだが未来を見通す力は無い。それが、自分の足を進めることを躊躇させる第一の原因だろう。もう少し若ければ危険を顧みずイケイケでめったやたらに進んだことだろう。しかし、経験というしがらみが自分の足を引き止める。向こう見ずに進める若さがうらやましいと共に、その危うさに眉をひそめる自分がいる。それが人生の初秋というものかもしれない。