医師不足

西の空は灰色の雨雲で覆われている。少し風に乗って雨粒も時たま顔に降りかかる。日本海側は今頃雨なのだろう。最近とみに医師不足の話題が上がっている。実際近隣の病院では診療科単位で医師が引き上げられ、診療科の廃止を行ったところもある。なぜこれ程医師が不足し始めたかというと、間違いなく研修医制度が始まったことに端を発する。実は今までの医療の大部分は、医師の24時間労働に支えられていたのである。研修医制度が始まるまで、新卒の医師は修行と言う名の下、休みも無く働き続け、休みの時間もバイトという名目で市中の病院の当直さえもしていた。それが時に過労死を生んでいた。またそれを指導する指導医も、それに劣らず自分が勤め先で仕事をしていないときは、学会、講演会、バイトというように休みでも働き続けていたのである。それが今まで永遠と途切れることなく続いていた。しかし、その仕組みの一つであった新卒の医師が研修医制度が始まり、今まで無給でバイトしなければ生活できなかったところ、曲がりなりにも月給が出るようになり、バイトも禁じられた。そうすると今までその下働きによって時間の都合をつけていた卒後5,6年程度の医師は、仕事量が増えることになる。更にその上もと言う様になる。すると今までこなしていた他の仕事をするため病院を休まなければ成らなくなる、そして病院の医師が不足し始めたのである。今まで一人で24時間分働いていたのが、16時間労働になれば当然33%の働き手が不足する。更にその労働に嫌気が差し開業するようになれば、50%の労働力が病院で不足することになってしまうのだ。そして今の現状がある。今まで医師が足りていたのではなく、医師の過重の労働が医療を支えていたといってよい。それが普通の状態に戻れば医師が不足になるのは当たり前ということに成る。更に言えば、それまでの過重な労働で多くの医療ミス事故が引き起こされていたわけで、それが是正されてきている筈である。今後医師不足の解消には10年以上掛かるだろう。更に高度の医療は、医療経済を圧迫するのは間違いない。今後医師不足が解消しても、それを受け入れる病院の数は減じていくに違いない。そうなったとき、医師の需要と供給のバランスが崩れるのは間違いない、その時にまでしっかりとした見通しを立てておかなければまた同じことを繰り返すに違いない。