残り香

低く厚い雲が垂れ込め、何時雨が降ってもおかしくない天候である。今週末は、低気圧の影響で予報通り天気は下り坂である。残り香は不思議なものである。そこを通り過ぎた誰ともわからない人間の存在を主張しているからである。残り香にも色々な匂いがある。タバコのにおいであったり、化粧品、体臭、食事の匂いであったりする。確かに鼻をつまみたくなる時もあるが、それ程強烈なものに出会うことは殆ど無い。しかし、道を歩きながら急に匂いを感じると、この道を数分或いは数十秒前に歩いた人の気配を感じるのである。その匂いも一度風が吹けば消え去ってしまうのだが。また、部屋に残る香りというのもある。それは外と違いしばらく残るものである。それが何年も生活した部屋ともなれば、その主人の香りが残るものである。色々な匂いがそこに暮らす人の生活臭となりその人の心の断片を想像させる。それが全てドラマチックな匂いとは限らないのが玉に瑕で、台所に溜まった生ゴミの強烈な腐敗臭などを嗅ごうものならそこから飛び出したくなるだろう。せめて自分の体からは、良いにおいを出したいのだが、この蒸し暑さで相当酷いにおいを出しているに違いない。