曇り、靄がかかったように見える。
1対29対300の比で示されるハインリッヒの法則というのがある。これは、一つの事件、事故に対して、重大な事故の一歩手前までいった29件の事故、そしてその事故が起こりそうだったが未然に防ぐことが出来た300の事象が存在するというものである。
この比自体、正確に統計上取られたわけでは無く、感覚的な意味が大きい。ここで何故そのようなことが起こるかと言われれば、人間は間違いを起こす動物であるということである。
自分でもそういった事は、今まで多く経験してきた。例えば、昨日帰り際、机に有った物を鞄に入れて持ち帰ろうと鞄を開けていたところ、部下にちょっとした事の許可を求められた。それに返事をした後、その口が空いた鞄をあたかも閉め忘れたように思い、物を持ち帰らずそのまま退社してしまった。帰り際忘れていたことを直ぐに気付いたのだが、丁度電車に乗らなければならない用事があったためそのまま帰ってきた。
話しかけられる直前の動作だったにもかかわらず、注意を別な方に向けたばかりに、準備していた次の動作を簡単に忘れてしまう。これはまさしく人間に起こりがちな事である。
例えば、それが一の命を預かるような作業だったらどうなるだろう。その一瞬の判断を誤ることで事故を引き起こしてしまうことがあることを普段から気を付けなければならないと自覚した次第である。
こう言葉で書くのは簡単である。その思いがけない行動自体、誰もがそんなことをするはずはないと考えることである。そういった事故を引き起こすことを予防するためにまず口にするのが気を付けなさいであり、それでそのまま収まってしまう事が多い。
しかし、いくら注意をしてもそういったミスを人間が引き起こすことを忘れてはならない。今後注意してくださいは、決して予防策とはならない。
アメリカでアシアナ航空の旅客機が着陸に失敗して2人の女性が亡くなった。飛行機事故は、うっかりミスによる事故が大量の人命を失う事につながるため、そのうっかりを無くす対策は飛行機会社から始まった。
そこでまず語られるのは、人間はミスをする動物であるという事である。そのミスを完全にゼロにすることはできないという考えから、人間のミスをカバーするような2重、3重の安全対策が取られるようになった。
人間のミスを無くす対策は、人間の能力に頼ってはいけないという事である。重大事故につながるようなミスばかりでは無く、重大事故にはつながらないまでの軽度な事故をゼロにするには、ミスを犯す人間に全てを任せていては決してなくなることは無い。
その上で、人間のうっかりミスをカバーするために色々な対策が執られることになる。例えば車でいえば、最初はアンチロックブレーキだろう。事故が起こりそうなとき人間は急ブレーキをするが、急なブレーキは、タイヤをロックしてしまうため制動距離が延びる。その制動距離を短くするためにアンチロックブレーキシステムというものが取り入れられた。日本製の大抵の車に今では標準装備されてきている。
そして今度は、障害物が前にあると自動ブレーキがかかるシステムである。これが有ればかなりの事故が防げるはずである。
更に今問題となっていることに、停車している車を発進させるとき、ブレーキとアクセルを踏み間違える事故である。前に障害物があれば上記の自動ブレーキシステムで対処できると思うが、例えば車の前何もなく崖のような場合、この効果は無い。その踏み間違いを解消するようなシステムが必要だろう。
ただし、機械が全ての人間のミスをカバーすることは不可能である。逆に機械の異常動作により事故を引き起こすことも有る。
人間のミスは無くならないという理屈から、全ての確認を機械に任せれば良いと考える人たちも多いが、そもそもその機械を設計し作るのが人間だという事を忘れてはならない。機械もミスをする人間が作るという事を忘れてはならない。