メッシの夏

 薄く雲がかかった曇り、気温も19度。


 今日、W杯が終わった。朝四時からの試合で全ての出場国の頂点に立つ試合である。それは、勝者を決めるというより、この大会がどういう大会であったかを決める大会である。勝者は、カップを受け取る瞬間までの短い間だけ勝者であり、受け取ったと同時にまた4年後の大会へ向けて一歩が始まる。

 アルゼンチンとドイツの試合は、守備力と守備力、そしてメッシ対ドイツの攻撃陣という戦いであった。両者ともベストコンデションでない中、この試合だけで言えばアルゼンチンの粘り強い守備力がドイツを上回っていた。得点シーンを除いては。

 攻撃は、決めきれないまでも数で勝る力は、メッシ一人の動きに頼るアルゼンチンよりもドイツが優勢だった。その攻守の戦いは、負ければ終わりという中の緊張感で包まれていた。

 前半、イグアインのシュートがオフサイドになったシーンを除いて両者とも決定機は少なかった。それはお互い、最後の最後で相手の攻撃を止めるからであった。それは、ファールと紙一重の戦いでもあった。その中で審判は、良くゲームをコントロールした。日本の西村さんが笛を吹くかもという噂話のような話が有ったが、笛を吹かなくて良かった。もし吹いていたらそちらが気になってゲームに集中していられなかっただろうし、また世界から批難を浴びるのを聞くのも残念だからである。

 試合は、本当に決まらないまま延長後半まで進み、ドイツの左サイドからゴール前に上がったボールをゲッツェ選手が胸トラップしたボールをボレーでゴール右隅に決め、試合会場の雰囲気は画面からもドイツの勝利を予感させた。

 そこからアルゼンチンは点を取りに行くがゴール前を固めたドイツの守備をこじ開けることはできず、メッシに変わるストライカーが既に交代し、得点を取れる選手はメッシだけという状況で、みんな諦めてしまったかもしれない。最後の最後にFKのチャンスをメッシ選手がゴールを狙うが遥か上空をボールは飛び越えて行った。

 そこで決めればメッシの大会に成ったのだが、さすがにそれは無かった。やはりメッシが得点を取るには、バルサのようにボールを出してくれる選手が沢山いてからこそで、そのバルサもメッシに得点を取らせようとするあまりチームバランスが崩れてしまい今年は、無冠となってしまった。スーパーな選手でも、やはりチームの中での扱いによりバランスを崩してしまう。返す返すデマリア選手の欠場は痛かったと思う。

 今大会は、ドイツの戦い方が今後の世界の標準となると思わせた大会であった。ブラジルを7-1で粉砕した戦いはその最たるものであった。

 ブラジルのような、大会前に召集され戦術もこれと言って目立つようなこともせず、個人の打開力で勝ち上がるというのはもう無理であるという事が判った試合であった。

 その戦い方は、攻守の切り替えを早くしパスワークで相手の攻撃時間を減らすという簡単すぎる答えになってしまうが、そういうチームが今後4年間の手本となったと言える。

 それを行うには、90分間以上パス回すを行う体力を持ち、攻撃の時は素早く全員が攻撃態勢に入る。その上下動を全員が行えるような能力が必要である。今回は、疲れからか少し全員の動きが遅くパスミスも前半から目立っていたが、今大会を通じて行っていたのはドイツである。

 そして今回敗れはしたが、アルゼンチンの守備力は称えられて良い。その要のマスケラーノ選手の動きは凄かった。どこにいても顔をだし、ドイツの攻撃を防ぐ運動能力は素晴らしかった。更に他の選手も忠実にゴール前を固め相手のシュートに対して必ず体で防ぐ体勢に持って行けるところは素晴らしかった。

 実際のところ、自分はPK戦を予想していた。それを打破するのはメッシ選手だろうと考えていたが、残念ながらそうでは無かった。でも結果的に決着がついたことは良かった。PK戦で優勝しても少し喜びは半減する。

 これから4年後、ロシアでの大会となるが、その中で日本代表はどう戦って行けるのか、この大会を通じて感じるのは、やはり最後の最後に守る、決めるそのギリギリの所の能力が劣っていたことである。アジアの中では、ギリギリのところでミスしても、相手が勝手に外してくれるが、この大会では、ミスをすればそれだけで得点を奪われる覚悟をしなければならない。そういう意味では、日本代表は決勝リーグで勝てるチームでは無かった。

 ここしばらく、決勝リーグで戦えるチームにすることは至難の業である。既に代表監督が決まったようだが、今回のようなアルゼンチン、ドイツレベルのチームにすることは不可能を可能にする戦いに成るだろう。そう感じさせられた。

 4年後という長くて短い期間の間にどれだけ日本代表が進化できるだろう。そして進化し続けられれば良いが、後退する恐れもあることを今回のスペインが証明してくれた。